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青森地方裁判所 昭和29年(行)16号 判決

原告 大沢三蔵

被告 青森県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、

「訴外八戸市農業委員会が昭和二七年八月一二日定めた八戸市大字類家字久保田四番一号田八反一六歩の買収計画に対する原告の訴願につき、青森県農業委員会が同二九年七月一七日した却下の裁決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求め、その請求の原因として、

「(一)原告は、八戸市大字類家字久保田四番一号田八反一六歩の所有者なるところ、昭和二七年八月一二日、訴外八戸市農業委員会は、右農地につき、自作農創設特別措置法(以下自創法という)第三条第一項第一号の規定による買収計画を定め、同日その旨を公告し、関係書類を翌一三日から同月二二日まで縦覧に供した。

(二)原告は、同月二二日、八戸市農業委員会に対し、右買収計画に対する異議の申立をしたところ、同委員会は、同年九月一〇日、右農地のうち四反歩につき異議を容認し、その余の部分につき異議は相立たない旨の決定をしその決定書は同月一八日原告に送達された。

(三)而して、原告は、同月二五日頃、右決定に対し、前記農地は、耕地整理の換地処分未済であること、都市計画区域内に存し住宅地帯予定地であるから近く使用目的を変更することを相当とすること等の理由により青森県農業委員会に対し訴願を提起したところ、同委員会は、右訴願が自創法第七条第四項に定める訴願期間を経過した後提起されたものであるとの理由により昭和二九年七月一七日これを却下する旨の裁決をし、その裁決書は、同月二二日原告に送達された。

(四)しかしながら、原告の訴願が法定期間内に提起された適法のものであることは明白で、これを却下した右裁決は違法であるからその取消を求めるため本訴請求に及んだ。」

と述べた。(立証省略)

被告指定代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として、

「原告主張の(一)、(二)の事実は認める。(三)の事実中原告が前記訴願を昭和二七年九月二五日頃提起したことを否認し、その余を認める。原告は、その主張のような内容の昭和二七年一〇月五日附訴願書を同月二〇日、八戸市農業委員会に提出して本件訴願を提起したのであるから、右は法定の訴願期間経過後の提起に係り、且つ、右期間徒過につき宥恕すべき理由も認められないから不適法な訴願である。よつて、これを却下した原裁決は何ら違法の点なく、本訴請求は失当である。」

と述べた。(立証省略)

理由

原告が八戸市大字類家字久保田四番一号田八反一六歩の所有者なるところ、訴外八戸市農業委員会が、昭和二七年八月一二日、右農地につき原告主張のような買収計画を定め、原告主張のとおりの経過で公告、縦覧の手続をとつたこと、原告が同月二二日右買収計画につき右八戸市農業委員会に異議申立をなし、同年九月一〇日、同委員会が一部却下の決定をなし、その決定書が同月一八日原告に送達されたこと、右決定に対し、原告が、更に青森県農業委員会に訴願を提起し、同委員会が原告主張のとおりの理由で昭和二九年七月一七日これを却下する旨の裁決をなし、その裁決書が同月二二日原告に送達されたことはいずれも当事者間に争がない。

原告は、右訴願が法定期間内に提起せられたものであると主張し被告はこれを争うから、この点について判断する。

八戸市農業委員会において、右買収計画につき申し立てられた原告の異議に対し決定をなし、決定書が原告に送達されたのは昭和二七年九月一八日であること前認定のとおりであつて、右は自創法第七条第三項の異議決定期間を経過した後であるから、右決定に対する訴願は、自創法第七条第四項の趣旨に従い右決定書送達の日の翌日である同年九月一九日から一〇日以内に提起すべきものと解せられる。

さて、証人久保秀及び原告本人は、原告の主張に副い、本件訴願書を昭和二七年九月二五日頃八戸市農業委員会に提出した旨述べているけれども、右各供述は後記各証拠に照し、容易に信用し難く他に原告が前示訴願期間内に本件訴願を提起したことを認めるに足る証拠はない。却つて、その方式及び趣旨により真正な公文書と認める乙第一号証の一、二、成立に争ない同第二号証、証人正部家久男の証言を合せ考えれば、原告は、昭和二七年一〇月二〇日、八戸市農業委員会に同月五日附の訴願書を提出したことが認められる。(乙第二号証は、本件訴願書の原本ではないけれども当庁昭和二八年(行)第四〇号農地買収処分不存在及買収令書取消請求事件において、原告自身の手によつて本件訴願書の写であるとして提出された右事件の甲第三号証に外ならないことは、争がないから、右は訴願書原本と同一の内容を有するものと認める。)しからば原告の訴願は、前示期間内に提起せられなかつたことが明白で不適法な訴願であるから、青森県農業委員会がしたこれを却下する旨の裁決は違法であるということができない。

よつて、本訴請求を理由がないものとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中島誠二 宮本聖司 平川浩子)

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